クリエイティブカンパニー 時遊人 Vol.6 Dramatical Reading

「Re:all world = 偽りの星屑 空の向こう =」


プロローグノベル
【ビフォア・ガール・ミーツ】時丘晃

 十字架を模した造形物が屋根に立っている。石造りのそれは、いわゆる教会であろう。
 丁度、夕刻を告げる鐘が鳴り終わるところだった。鐘の音に劣りに劣った乾いた音がパチンと、微かに聞こえた。
 夕食の準備に追われているシスター達の目の届かぬ教会の裏で、女と女……少女と少女が睨み合っていた。歳は10歳ぐらいだろうか。先程の乾いた音、先攻して右手を上げているのは黒髪で、肩まで届く髪を後ろに束ねている少女。その平手を食らったのは、明るいブラウンで、男の子にも見えるショートヘアーの少女だった。それを、目も口もまんまるに開けて見ている金髪の少女。こちらは二人よりも幼く見える。
 後攻。茶髪の少女が右手を握り、その拳を黒髪少女の腹に向けて放つ。
 首を絞められたニワトリのような、実際にはそんなものがどんな音であるかは知らないが、殴られた腹をさすり、黒髪少女が睨みを返す。
「……マルチア……殴りやがったな」
「先に叩いたの、フィーじゃない!」
「俺はパーで叩いたんだ!」
 フィーと呼ばれた黒髪少女が、また、茶髪少女、マルチアの頬を叩く。
「なんで、また叩くのよ!」
 マルチアはまた、フィーの腹に目がけて拳を一発。
「だから、殴るのやめろ!」
 フィーはまた、マルチアの頬を叩く。
「フィーだって殴ったじゃない!」
「俺は、叩いたんだ! グーの方が痛いから俺はしないんだぞ!」
「パーも痛いもん!」
 この際、グーでもパーでも、全力で当てれば痛いものは痛い。  お互いに、理不尽で幼稚な殴り叩き合いが続く。それぞれ、殴りは殴り、叩きは叩きと、お互い意地を張りながら、痛みに涙を流し、なんで殴り叩き合っているかも忘れて、声は上げずに泣きに泣いて。
 両者一歩も退かず、そろそろ痛みに負けて声を荒げて泣き出す、前に、金髪少女が声を上げて大泣きをし始めた。履いているスカートの裾を持ち上げ、全身で泣き出している。
 フィーもマルチアも手を止め、泣きたいのはこっちなのに何故お前が泣くのかと、そう言った鼻水に涙まみれのおかしな顔を彼女に向ける。
「おい、ドルチェ」
 フィーが少女の肩に手を置く。ドルチェと呼ばれた金髪少女は、更に泣き声を増す。
「ゴベンナジャイ」
 ごめんなさい。ドルチェは二人よりも更に涙と鼻水を散し、泣き続ける。
「フィー、ネ、姉様、マ、ルチア姉様、ゴメンニャシャイ」
「ちょっと、なんでドルチェが謝るのよ」
 マルチアがドルチェを両手で抱きかかえる。
 嗚咽混じりで、ドルチェが、
「だって、だ、って。ドルチェが、ドルチェが決め、ないから、姉様たちが」
 決める。それは遡ること、そんなに昔ではない先程の、教会の鐘の鳴る前の話。フィーネの唐突な言動から始まる。
『今日から俺たちは家族だ!』
 そのことである。教会にいる以上、家族であることには間違いないが、何十人もの歳近い家族など家族ではないと、幼い頭でフィーネはそこに行き着いた。
 だから自分たちで自分たちが家族であると思おうと、二人に言ったのである。
 だが、人工管理局のスケジュールによって同じ日に生まれたフィーネとマルチアと、それから二年後に生まれたドルチェ。歳の違うのが一人いることで、フィーネとマルチア、どちらが姉であるのか。ただ、その、姉という立場を巡って、少女と少女の本当のキャットなファイトが勃発したのである。可愛いものだと言うしかない。
「姉様は姉様で、ドルチェが、ドルチェが姉様って言うから、ケンカしないでぇぇぇええ」
 大泣きでドルチェが懇願する。
 フィーネがドルチェに抱きつき、我慢していた涙を大粒で流す。
「当たり前だろ! お前は俺の、いも、妹、なんだからぁぁあああああ」
「私だって、ドルチェのこと、妹だって、思って、いりゅんだぁぁああああ」
『あああああああああああああああああああ』
 マルチアも加わり、涙涙の三重奏が響き渡る。
 流石に誰にも気付かれないわけもなく、三人同様にこの教会に住む少女がシスターを連れて、可愛いキャットファイトに幕が下ろされた。
 鼻を真っ赤にさせた三人をシスターが手を引いて歩いている。怒っていることもなく、ただ、「仲良しね」と、そう声をかけている。
「あぶないよー」
 教会正面に集まっていた少女達の中から、そんな言葉が聞こえた。
 シスターはフィーネ達をそこに留めさせ、「どうしたの?」と少女達に声をかける。少女達は上を指差していた。
 鼻をすすりながらフィーネが空を、教会の塔を見上げる。オレンジ色に染まった空を背景に、白い塔に人影を見つける。ドルチェと同じ背丈の少女が、教会の屋根に登っていた。
 シスターもそれに気付いたらしく、
「ミソラ! そんな高いところへ登っちゃ、危ないですよ!」
 シスターは大慌てで教会に入っていった。
 フィーネはミソラを見る。ミソラの視線の先を見る。
 振り返ると、太陽が丁度、地平線に沈んでいくところだった。
「別に屋根なんかに登らなくても、丘の上なんだからここから見下ろせばいいじゃねぇか」
 フィーネは鼻を鳴らす。
 そんな夕日の中に、何か両の手を伸ばすような、何かが横切ったように見えた。
 フィーネは目をこすり、夕日に目を凝らす。だが、その何かは夕日の中にも、この空にも、はじめから無かったかのように見つからない。
「フィー、どうしたの?」
 マルチアがフィーネの顔を覗き込む。
「なんでも」
 フィーネはドルチェとマルチアの手を引っ張り教会へ向かう。
 屋根の上に辿り着いたシスターが、足をすくませながらミソラを捕まえるところだった。
「くちゅん」
 ドルチェがくしゃみをした。
「あーぁ、ただでさえ鼻っ垂れてんのに」
 フィーネがボヤく。
 また泣きそうになるドルチェの鼻を拭き、マルチアがフィーネに拳をお見舞いする。
「ドルチェをイジメちゃだめでしょ!」
「俺はいじめててなんか」
「また、姉様、ケンカ」
「はいはい。さぁドルチェ。暖炉で体暖めよう? お姉ちゃんと一緒に」
「おいマルチア!」
 マルチアとドルチェを追いかけるように、フィーネが教会の中へ入っていく。

【ビフォア・ガール・ミーツ 終幕】

プロローグノベル(1)「とある男の話」
プロローグノベル(2)「ガール・ミーツ」
プロローグノベル(4)「LADY to LADY」
プロローグノベル(5)「サウストピア」
プロローグノベル(6)「ターニング・ムーン」





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