クリエイティブカンパニー 時遊人 Vol.6 Dramatical Reading

「Re:all world = 偽りの星屑 空の向こう =」


プロローグノベル
【ガール・ミーツ】時丘晃

 装飾等はなく、ただ黒く、味気ない壁がある。
 登れない高さではない。だが、登った先にはスタンガンの雨霰。気絶して、セブンスコンスルに捕まる。この先はパトリキしか入れない上位市民区画。
 その壁の下に、大小様々な建物が壁に沿ってひしめきあっている。食べ物や酒に薬。見た目も空気も悪い。昼間っから女達が、各々好きにその日を生きているようだ。
 そんなスラムな軒並みの中、壁と同化している不自然な教会がある。
 教会から少女が出て来る。ハネっ毛のあるセミロングの黒髪。面立ちは十代半ばか。黒いタンクトップにジャケットを羽織り、腰にはS.O.E。対ヴァーラム特殊銃を携帯している。
 左の腕首につけた端末を見て、少女は頭を垂れる。
「……はぁ……」
 少女は深くため息をついた。
「結果は結果だ。ミソラ、次で取り返せばいい」
 端末から男の声が発せられる。
「次次って言うけどさ。ここのところ、任務内容と違うことばっかりでハズレじゃない」
 ミソラと呼ばれた少女が、端末に愚痴を吐く。
「無いよりマシだと思うがね」
「サーチャーはいいじゃない。食事しなくても生きていけるんだから」
「だが、電力無しには生きていけない」
 サーチャー。対ヴァーラム支援端末のバトラーパーソナリティである。
 サーチャーは人工知能ではない。男性種絶滅以前にアーカイブされた男性の人格を元に作られている。端末ごとのサーチャーは同じ人格を元にしているが、それぞれに個性があるらしい。
「資源探し、資源探し……私、ホルダーなのに」
「ヴァーラム倒し……したくてしたくてたまらないと?」
「そういうわけじゃないけど」
 地球温暖化が進み、環境変化の延長線で突然変異したヴァーラムは、凶暴化して人々を襲い、一時は人類滅亡も危惧された。
 そのヴァーラムを排除すべく作られたのがS.O.Eである。
 地球にある資源の多くが底を尽き始めている今、ユートピア維持機構「バビロン」が制定した資源使用制限法によって、銃などの武器は厳しく制限が掛けられている。
 ヴァーラムに対抗するS.O.Eには、旧来の「特定の銃には特定の弾丸」という、資源を過剰消費するデメリットを解決するバレッタニウムが装填される。バレッタニウムは全ての弾丸の原料であり、S.O.Eに装填することで、その場であらゆる弾丸を生成、使用が出来る。
 その使用と保持を認められているのは、治安部隊のセブンスコンスルと、下位市民、プレブスのミソラのようなホルダーたちだけである。
「でも、このままじゃ」
 酒場の前を通りかかった時、酒瓶やイスと共に少年がミソラの前に飛び転がって来た。
 少年の髪は酷く汚れ乱れ、銀髪であることに気付くのに時間を要した。
 少年は無言で立ち上がり、酒瓶を手にする。
 酒場から女店主と、その取り巻きの女たちが出てくる。
「何様だと思ってるんだい!」
 店主は別の酒瓶を少年に目がけて投げつける。酒瓶は少年の頬をかすめた。
 少年が口を開く。
「僕は、マスター達の健康を」
「それが余計なのよ! モノソミアンの分際で、私たちの健康? 笑わせないでよ。病原菌」
 ミソラが手を握りしめ、店主を見る。表情、そしてその眼光は怒りに満ち溢れていた。
 それに店主が気付く。
「なんだい、お嬢ちゃん」
「あなた」
「よせ、ミソラ」
 サーチャーが制止するも、言葉だけの彼では無意味であった。
「何様はあなたよ!」
 ミソラが店主を指差し、続ける。
「レプラノイド……彼に対して、なんて酷い扱いしてるの」
「酷い? どこが酷いのよ」
「物を投げつけて」
 ミソラは少年を見る。よくよく見ると、顔も腕も傷だらけである。
「……怪我までさせて!」
 ミソラの発言に、店主達が笑う。
「怪我? 何言ってんのよ。そいつはモノソミアンよ? 怪我って、ちょっと」
 店主達が笑うのは仕方がない。
 少年は人類に平和奉仕をするレプラノイド。男性種が絶滅してから、その代替として作られたアンドロイドである。サーチャーと同じようにアーカイブされた人格を有している。だが、サーチャーと違い、従順性を持たせるために、制限と呼ばれる記憶や人格調整を施されている。侮蔑の意味を込められ、男性種を滅ぼしたウイルスの名前を取ってモノソミアンとも呼ばれている。
「それでも」
 ミソラが言葉につまる。そんな彼女を見る少年。
「それでも! 資源……使用制限法に、反するわよ」
 ミソラは声を曇らせながら資源使用制限法を口にする。
 店主たちの笑いが止まる。ミソラの腰に掛かっているS.O.Eに気付き、取り巻きたちが声を潜めた。
「お嬢ちゃん、ホルダーかよ」
「そうよ……バビロンが支給した……彼を、使うのは自由だけど、好きにしていい法律はないわ」
 店主は頭を掻き、あからさまにシラケた顔をする。
「バビロンの子犬が」
 そんな声が取り巻きから聞こえた。
「セブンスコンスルに通報するって?」
 店主がため息混じりにミソラに問いかける。場合によっては、と返すミソラ。
「いいご身分だこと……もういいわ。じゃぁそいつ引き取ってよ」
「何言って」
 店主の言葉に、ミソラが驚く。
「いらないから処分してって言ってるの」
 ミソラが少年を見る。少年は終始無表情のままである。
「支給っつても、わたしゃ中古で買っただけだしね」
「買った?」
「ママ、それ言っちゃ」
 取り巻きが慌てて、店主の腕を掴む。
「あー、めんどくさいわね! 何? 私たちをしょっぴくかい?」
「そんな権限、私にはないわ」
「だったら、そいつと一緒にどっか行ってくれない? 通報したけりゃすればいいわよ。いつまでもそこに立たれたら、客が来ないじゃない。それともあれかい? あんたが客寄せするかい?」
 取り巻き達がミソラの風貌を見て苦笑する。
 ミソラは歯を噛み締め、店主達を睨む。恐い恐いと高笑いをする店主達。
 ミソラは少年の手を掴み、足早にその場を離れる。
 引かれる手を見て数歩踏み外すも、少年はミソラの歩調に合わせて歩いていく。
 二人と一つ、無言のまま歩いていく。バビロンに向かうわけでもなく、あても無く、軒並みがなくなるまで。
 いくばくか時間が経ち、空は青から赤へ、太陽が地平線に触れようとしていた。
 小高い丘で、ようやくミソラが歩みを止める。
 ミソラは夕日を見ている。
「……あの」
 少年がミソラに声をかける。
「何?」
「疲れない?」
 少年の言っていることがイマイチ分からず、ミソラが首をかしげる。
「僕は逃げないから。心配なら手を縛ってもいいよ」
 さらに言っている意味が分からなかったが、自分の手を見る。少年の手をずっと握っていた。
 顔を赤らめ、ミソラは手を離す。
 そんなミソラを見つめる少年。
 レプラノイドの感情が抑制されているのは知っているが、少年の視線に耐えきれず、ミソラはまた夕日を見る。
「ミソラ、どうするつもりだ?」
 端末のサーチャーが重くない重い口を開く。
「……処分って」
「まぁ、人格を再度アーカイブして、本体はリサイクルだな」
「物扱い……」
 ミソラが低い声で漏らす。
「でも、それが僕らだから」
 少年が口を挟む。
「あなたは何も思わないの?!」
「何を思えばいいの?」
 少年がさぞ普通のことのように言い返す。
「ミソラ。彼は何とも思っていない」
「制限だって言いたいんでしょ? 彼が良くても、私はそう思えない。サーチャーだって、そう思わないの?」
「それは、まぁ」
 ミソラが少年に振り向く。
「ねぇ、あなたはこのままでいいの?」
「僕には分からないよ。それを決めるのはマスターだから」
「マスターって……あれ……サーチャー」
「なんだい?」
「あの店主、処分って言ったってことは、所有放棄したのよね?」
「もちろん。まぁ、本来は色んな手続きが必要だが、ほら、私があの場にいたじゃない。バビロンのもとに所有放棄受理はして……まさか」
 強張っていたミソラの顔に不適な笑みが浮かぶ。
「いや、ミソラ。まさかね」
「そのまさかよ」
「いやいや、君が?」
 ミソラが少年に名前を聞く。
「僕の、名前?」
「そう」
「ゴミ漁りのカラス」
「何それ……」
「マスターがそう言ってた。クロウって名前よりお似合いだって」
「えーと……クロウってのが本当の名前……ってことよね?」
「その前はそう呼ばれてた」
「そう呼ばれてたって」
 名前はマスターの自由。と、少年が無表情で答える。
 ミソラはどこか寂しそうに目を細め、端末を叩く。
「決めた!」
「うちの御姫さんときたら……」
「文句ある?」
「あっても聞かないだろう」
「分かってるじゃない……クロウ。今度は私がマスター……バディになりましょう」
「バディ?」
「そ、主従じゃなく、相棒」
「よく分からないけど、僕の管理者ってことだよね」
「建前だけよ」
「建前……よく分からない」
「分かんなくてもいいわよ。決まったことは、私たちはバディ」
「マスターがそれでいいなら」
「それもダメ」
「ダメ?」
「私はミソラ。ミソラって呼んで」
「ミソラ」
「私はクロウって呼ぶから。いい?」
「分かった」
 笑顔になるミソラを、少年は不思議そうに見つめる。
「こればっかしは簡易承認出来ないぞ?」
「なんでよ、サーチャー」
「ホルダーのバディにレプラノ」
「クロウ! でしょ」
「あ、いや、名前はそうだが、いや、前代未聞だぞ」
 いいのいいのと、ミソラはまた夕日を見る。
 赤い荒野が益々色を濃くしていく。

【ガール・ミーツ 終幕】

プロローグノベル(1)「とある男の話」
プロローグノベル(3)「ビフォア・ガール・ミーツ」
プロローグノベル(4)「LADY to LADY」
プロローグノベル(5)「サウストピア」
プロローグノベル(6)「ターニング・ムーン」





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