クリエイティブカンパニー 時遊人 Vol.6 Dramatical Reading

「Re:all world = 偽りの星屑 空の向こう =」


プロローグノベル
【とある男の話】時丘晃

 見渡す限り草も木もない。そんな平原を見おろす丘に男が一人立っていた。
 眼鏡の片側はひび割れ、数ヶ月は散髪をしていないボサッとした黒髪に無精髭。虫に食われたか、どこかに引っ掛けたか。あるいは両方。男はくたびれたグレーのコートを纏い、頭上を見上げている。
 明け方から続いていた砂嵐も去り、空は数週間振りに満天の星空を露にしている。
 風が一吹き、男のコートをたなびかす。ここに来てから大分暖かくなったとは言え、まだまだ夜は冷える。遠い春を首を長くして……首をコートに沈め、男は白い息を吐く。
「博士!」
 男は振り向く。
 男と同じくグレーのコートを纏い、赤茶髪の若い男が白い息を不規則に、息を切らしながら丘を登ってくる。
「おぉ、ノルマンくん」
 ノルマンと呼ばれた若い男が、丘の中腹で立ち止まり、男を見る。
「何、勝手に……出歩いて…るんです、か!」
 相当走って来たのだろう。言葉も切れ切れに、益々白い息を吐き続ける。
「はっはっは! ちょっと君、この程度の丘でギブアップかい? 私より若いのに情けない」
「馬鹿、言わないで下さいよ。空気、薄いんですから」
 ノルマンが頂上に上がってくる。肩が小刻みに上下している。
「慣れろ慣れろ。じゃないと生きていけないぞ」
 男は腰に手を当て、大きく笑う。
「まったく。博士は生活規範、守る気ないんですか?」
「星を見るのに規範が必要か?」
 ノルマンは男の視線を追う。
「……ここでも、見えるんですね」
「当たり前じゃないか。星はいつでもこの空にある。むしろ、ここは綺麗過ぎるくらいだ」
 男は、子供のように、無邪気に笑みを浮かべる。
「天文考古学者として、今この瞬間を、歴代の学者たちに敬意を払って、懺悔も感謝もオンパレードに叫ぶ……マーベラス!!」
 男が両手を広げ、高らかに声を上げる。
 ノルマンは少し退いた目で男を見るが、彼も無言で空を見上げる。
「ノルマンくん。君もそう思うだろ?
「僕は……まぁ、そうですね」
「なんだ? 薄い反応だな。いいかい。我々はこれから、新たな星のルーツを紐解くんだ! 先人たちが成し遂げたように、数百年後、数千年後の人類が、私たちの神話を鵜呑みにするような」
「神話って、ただの観測データ」
「君……ロマンの欠片もないね」
「悪かったですね」
「もっと大きな夢を描こうよ」
「描きたいですけど……博士」
 ノルマンが目を細め、男を見る。
「なんだい?」
「研究費はおりても、肝心の資材がないんじゃ」
「とても現実的なところを突くね……あ、いや、でも先週、望遠鏡の申請したから」
 ノルマンがおもむろに書類を出す。
「何?」
「見れば分かります」
「……申請、見送り……え」
 書類には、精密機器制限法の名の下に、望遠鏡の申請を見送る旨が書かれていた。
「望遠鏡だぞ! 高々、一つ!」
「されど一つです。博士」
「いや……よし、抗議しよう」
 男は書類を握りしめ、丘を下り始める。
「え、ちょっと、博士?」
 ノルマンが男に続く。
「これは戦いだよ。ノルマンくん」
「管理教導隊に捕まりますよ!?」
「いいかい? これは人類史が始まってから続く、崇高なロマンを賭けた戦いだ」
「いや、何、狂ったことを」
「星空がそう叫んでいるのさ! はっはっは!!」
「博士!!」
 満天で、寒空の下、二人の男が走っていく。

【とある男の話 終幕】

プロローグノベル(2)「ガール・ミーツ」
プロローグノベル(3)「ビフォア・ガール・ミーツ」
プロローグノベル(4)「LADY to LADY」
プロローグノベル(5)「サウストピア」
プロローグノベル(6)「ターニング・ムーン」





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